最近、維新の会議員らが一般社団法人の理事に就任し、意図的に報酬を低く設定することで社会保険料を安く抑えていた「国保逃れ」のニュースが世間を騒がせています。当局は「網目を細かくして是正する」と息巻いていますが、果たしてそれは正解なのでしょうか。
この問題の本質は、個人の道徳心以前に、日本の制度そのものが「抜け漏れ・ダブり」だらけの、論理破綻したパッチワークになっているという点にあります。
1. 「網目を細かくする」という思考の罠
政治家や行政は、不祥事が起きるたびに「ルールを厳格化し、網目を細かくする」と言います。しかし、網目を細かくすればするほど、以下の負の連鎖が止まらなくなります。
- 解釈の不透明さ: 複雑な細則が増えるほど、「何が白で何が黒か」の境界線が曖昧になります。後から「実はダメだった」と遡及請求されるリスクがあれば、誰も新しい挑戦ができなくなります。
- 「逃げ道」の再生産: 複雑なシステムには必ず「重なり」や「隙間」が生じます。賢い人々がその隙間を見つけ、また新しい「節税商品」を作る。これの繰り返しです。
- 監視コストの膨張: 網を細かく維持し、違反者を取り締まるために、膨大な公務員とシステム投資が必要になります。
この「いたちごっこ」は、国家全体で見れば 1円の付加価値も生んでいない「不毛な労働」の山です。
2. 付加価値を生まない労働が、日本を貧しくしている
今、日本に必要なのは「投資」や「IT化」ではありません。
「付加価値を生まない労働をなくすこと」です。
現在の複雑怪奇な税制や社会保険制度を維持するために、どれだけの優秀な頭脳が浪費されているでしょうか。
- 制度の穴を探すコンサルタント
- その穴を塞ぐための細則を作る官僚
- 「今のルールで大丈夫か」を1日中確認している事務員
彼らがどれだけ必死に働いても、新しい技術は生まれず、誰かの病気が治るわけでもありません。ただ「ルールという名の内輪揉め」を処理しているだけです。この「制度の摩擦(フリクション)」こそが、日本の生産性を著しく低下させている元凶です。
3. 「もはや戦後ではない」時代のシンプルな解決策
「昔は刃物で刺されても病院に行かなかった」という逸話があるように、かつては自助努力と覚悟が社会の前提にありました。現代の日本が目指すべきは、全方位を管理し、細かく配分しようとする「網の細分化」ではなく、制度の徹底的な簡素化です。
例えば、以下のようなドラスティックな転換が必要です。
- 保険料の一律化(定額制): 所得にかかわらず月1万円など、極めてシンプルな定額制にする。
- 自己負担の適正化: 軽症なら自分で払う、あるいは耐える。本当に命に関わる事態にだけ保険を機能させる。
もし制度が「誰が見ても一目でわかる」ほどシンプルになれば、報酬を操作して社保に逃げ込む動機は消滅します。確認のための事務も、取り締まりのためのGメンも不要になります。
結論:政治の役割は「網を編むこと」ではない
「取り締まり」が必要な状態というのは、制度としての敗北を意味します。本当に強い制度とは、「逃げる手間やリスクの方が、真面目に払うコストより高くつく」ほど合理的で簡潔なものです。
日本が再び活力を取り戻すためには、複雑なパッチワークをこれ以上継ぎ足すのをやめるべきです。一度、更地に戻す覚悟で制度をシンプルにし、国民全員が「制度の解釈」ではなく「価値の創造」に時間を使える社会を作ること。
それこそが、迷走する「国保逃れ」問題に対する、唯一にして最大の提言です。